ウィスコンシン州の北端のスペリオール湖にいくつかの島々が浮かんでいる。17世紀にこの地方を訪れたフランス人宣教師は、12の島を数えることができたことから、キリストの12人の使徒(apostle)にちなんで、Apsotle Islands(アポスル・アイランド:使徒諸島)と名づけた。しかし、実は実際には22の島々から構成されており、そのうち21の島々が、国立公園局の管理下に置かれ、Apostle Islands National Lakeshore(アポスル諸島国立湖岸)を形成している。
スペリオール湖は、その水深が最も深いところで1,402フィート(427m)と深いため、その水の色は非常に深い青色に見える。深い青色の水辺に緑色の島が浮かんでおり、そのコントラストが晴れた日には美しく見えることから、アポスル諸島は"Jewel of the Superior"(スペリオール湖の宝石)と呼ばれることがある。
6億年ほど前に堆積した砂岩を氷河が削り、カラフルな崖、浸食による形成された洞窟や長く伸びた砂浜などで湖岸は形成されており、湖から眺める景色を豊かなものとしている。この辺りの森林は、樫、松、ヘムロック、カエデなどのハードウッドの北限となっている。
この地では様々な産業が移り変わっていった。17世紀から19世紀はじめまでは毛皮とりわけビーバーの毛皮の重要な交易ルートとなっていた。1830年代には、アメリカ毛皮会社は、この地に漁業基地を設け、スペリオール湖における漁業に投資をしたが、1837年の恐慌で失敗に終わっている。Manitou Island(マニトウ島)には漁師のキャンプが復元されている。次には、湖岸の砂岩が注目を集め、19世紀後半には、多くの石切り場ができ、シカゴ、ミルウォーキー、デトロイトなどの中西部の都市の発展に寄与した。Basswood Island(バスウッド島)、Hermit Island(ハーミット島)、Stockton Island(ストックトン島)には石切り場の跡が残されている。20世紀に入り周辺の人口増は、木材需要を増加させ、アポスル諸島の木々は伐採され、出荷された。木材が伐採された島は、鹿やビーバーの繁殖場となり、現在では再び森林が戻ってきている。
これらの島々に色取りを添えているのが、灯台である。22の島のうち6の島(Long, Outer, Raspberry, Devils, Michigan, Sandの各島)に8つの灯台が建てられており、国立公園のユニットの中では最も灯台が集中している地区となっている。 いずれも19世紀に航海の安全のため建てられたもので、クラシックなデザインが人気を集めている。それぞれの灯台は、ここで見ることができる。
ラズベリー島の灯台
アポスル諸島を見て回るには、対岸のBayfield(ベイフィールド)の町からクルーズ・ツアーが出ているので、これに参加するといいだろう。私達も、ラズベリー島にあるかわいらしい灯台を見学に行った。クルーズに参加すると、灯台のほかに、Devils Island(デビルズ島)の洞窟、Honeymoon Rock(ハネムーン岩)などの地形や石切り場を見ることもできる。 湖はとても大きく、対岸など見えないので、まるで海でクルーズをしているような感じだ。
デビルズ島の洞窟
このほか、ストックトン島にはブラックベアーが多数住んでいることで知られている。熊の密度は全米最大とも言われており、この小さな島に30頭ほどの熊が生息している。洞窟は、デビルズ島のものが有名だが、ベイフィールド半島のMeyers Beach(メイヤーズ・ビーチ)の先にも洞窟がつながっており、カヤックの絶好のコースとなっている。ストックトン島、バスウッド島やOak Island(オーク島)などはトレールが整備されており、キャンパーに親しまれている。
(国立公園局のHP)
(国立公園局の地図)(PDF)
アポスル諸島のきれいな写真は、ここやここで見ることができます。
ミネソタ州は、 "Land of 10,000 Lakes"(1万の湖のある土地)と言われ、針葉樹の森と無数にある湖沼で覆われている。明け方に車を走らせると、湖沼から水蒸気が立ち上がり、幻想的な風景を創り出している。氷河期の置き土産の1万の湖をところどころ見ながら車を北に走らせると、行き着くのが、ここVoyageurs National Park(ヴォイジャー国立公園)である。
ヴォイジャー国立公園は、30以上の湖が連なった国立公園で、18世紀に毛皮取引が盛んであった頃、ヴォイジャーたちの重要なカヌールートとなっていた場所である。ここには豊かな自然が残り、ヴォイジャーたちがカヌーを走らせていた頃の風景がそのまま残っている。
この辺りの風景は氷河期の影響を受けているため、ヴォイジャーの岩は、上層部にあっただろう堆積岩などは削り取られ、20億年前に海底で形成された古い地層がむき出しになったものである。
針葉樹の森を背景に、みさご、鷹、青サギなどの鳥が空を舞う。ここはアメリカの国鳥ボールド・イーグルが観察できる場所である。 私達も空を舞うボールド・イーグルを見ることができたが、どうせなら望遠レンズを用意してカメラに収めよう。私達は小さいカメラしかもっていなかったので、残念な思いをした。この他にもカワセミ、カモ、ウ、ルーンなどの水鳥も豊富で、バードウォッチャには貴重な場所となっている。動物ではムース、鹿、ブラックベアー、ビーバーなどのほか、48州では珍しい狼が生息している。狼は、通常2-12匹の群れで行動し、ムースや鹿などの大型動物を攻撃することもあるが、ここでは主にビーバーをえさにしているようだ。狼は行動範囲が広く、時速50km前後で走り、一晩で60kmをカバーすることもある。慎重で用心深い性格のため、なかなかお目にかかることはできない。
ヴォイジャーの楽しみ方は、船に乗るに限る。いく� �かのレンジャーが引率するツアーが出ているので、それに参加して見よう。ビーバーのダムがいくつか見られるかもしれない。ヴォイジャー国立公園からは、カナダの国境はすぐそばである。ここがカナダの国境だというサインがあるところまで連れて行ってもらったが、周りの自然を見ると、人為的な線を引いているに過ぎない感じがする。Kettle Falls(ケトル・フォールズ)というところでは、アメリカにいながらにしてカナダを南に見ることができ、おもしろい。しかし、本当に楽しむのであれば、カヌーやカヤックにのって、昔のヴォイジャーさながらに、湖を縦横無尽に走り抜けるのであろう。
カナダを南に
(国立公園局のHP)
(国立公園局の地図)(PDF)
ヴォイジャー国立公園のきれいな写真は、ここで見ることができます。
48州の中で最もアクセスしにくい国立公園は、ここIsle Royale National Park(アイル・ロワイヤル国立公園)ではないだろうか。五大湖の一つスペリオール湖に浮かぶこの島は、最も近い西の対岸の町ミネソタ州グランド・ポーテッジから22マイル(35km)離れており、フェリーで3時間かかるところにある。アイル・ロワイヤルは、長さ45マイル(72km)、幅9マイル(14km)あり、五大湖に浮かぶ島としては2番目に大きな島だ。アイル・ロワイヤルは、ちょっと目には気が付かないが、200以上の小さな島に囲まれており、ちょっとした群島を形成している。
アイル・ロワイヤル島はスペリオール湖よりも歴史が古く、12億年前にこの地方からカンサスに到るまで地表が割け、その地割れの部分から溶岩が吹き出て地表を覆った。溶岩による火成岩は左右から押されてU字型に歪み、しわを形成した。その上を堆� �岩が覆うが、氷河期には氷河に削られ、氷河期が終了し、五大湖ができると氷河に研がれた太古の峰が島となった。
この島では古くから銅が取れることが知られており、今から4,000年前に原住民が銅を採掘した跡が発見されている。1671年にフランス人の毛皮商がこの島をアイル・ロワイヤルと名づけ、アメリカ独立の際にアメリカ領に組み込まれた。19世紀には銅の商業採掘が試みられたが、銅の保有率が低く、運送費用もかかるため、採算が取れず、いずれの試みも撤退に終わっている。